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プロの広告漫画家に聞く!『伝わる漫画』の構成&作画のコツ

プロの広告漫画家に聞く!『伝わる漫画』の構成&作画のコツ
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広告漫画家として8年のキャリアを持つタニグチさんに、広告漫画制作のこだわりやスキル向上のポイントを伺いました。広告漫画は、商材の魅力を自然な流れで伝える構成力が求められる分野です。タニグチさんは、読解力を磨き、訴求ポイントを的確に整理することで、わかりやすく魅力的な漫画を制作しています。また、キャラクターデザインの幅を広げる工夫や、読者を引き込むコマ割りのテクニックも紹介。広告漫画の質を高めるヒントが詰まったインタビューです。

広告漫画家として8年の経験を持つタニグチさんに、漫画制作のこだわりやノウハウについてお話を伺いました。​広告漫画家は副業で活動される方が多い中、タニグチさんは広告漫画一本でお仕事をされています。

​これから広告漫画家を目指す方や、スキルアップを図りたい方に向けて、仕事を獲得するテクニックや広告漫画制作のこだわりなどをお聞きします。

​広告漫画制作の強み

フーモア:​ご自身の広告漫画の強みについて教えてください。

タニグチさん:自然な流れで商材の説明を組み込む構成ができることだと思います。

フーモア:ここは絵の上手さやコマ割りとは別次元のスキルですが、広告漫画家にとって重要なスキルですよね。制作会社から漫画制作を依頼される際、クライアントのホームページや資料が送られると思います。制作会社からポイントなどの補足説明はありますが、広告漫画家も渡された資料の中で何が重要で何を伝えたいのか、広告漫画家自身が分析しアウトプットしないと魅せる広告漫画は作れないと思っています。

タニグチさん:​その通りです。この読み解く力は一朝一夕で身につくものではなく、読解力や国語力が求められる分野だと思います。自分の場合は、本を読んで読解力を養うことで、商材のホームページを見た際に訴求したいポイントが直感的に分かるようになりました。

フーモア:普段どんな本を読まれるのですか?

タニグチさん:最近は数学の本なども読みましたね。自分が数学できないので苦手分野のジャンルも触れるようにしています。

フーモア:苦手ジャンルの本も読まれるのは素晴らしいですね。タニグチさんは漫画を描くスピードが非常に早いと感じていますが、作画スピードだけでなく、サービス理解や訴求ポイントの整理のスピードも速いからこそ可能なのだと思いました。

タニグチさん:あとは商材の難易度にもよりますよね。「美味しい」や「便利」を訴求したいテーマだと描きやすいというのもあります。

フーモア:難しいジャンルでいうと「システム系」や「通信」などの無形商材は難易度が高いですよね。サイトを読んでも理解が難しいサービスの場合、どのように対処されますか?

タニグチさん:どうしても全てを理解できない商材もあります。そのような場合、資料の目次や用語は企業が伝えたいポイントであることが多いので、そこを理解するよう努めています。重要なポイントを広告漫画に取り入れることで、サービスの全体像を把握できなくても、訴求ポイントを反映することができます。

広告漫画制作で気を付けること

タニグチさん:​企業が広告漫画を制作する際、伝えたいことが多く、すべてを漫画に反映するとページ数が不足し、展開が冗長になる可能性があります。​そのため、漫画のわかりやすさを保つために、不要な情報の削減を提案するようにしています。​

ディレクターが漫画化するポイントをまとめることが多いですが、最終的な情報量の適切さを判断できるのは広告漫画家自身ですよね。​なので漫画の見やすさやわかりやすさを確保するための整理は、広告漫画家の責任であると考えています。​

フーモア:​作品自体をより良くし、漫画としての品質も管理したいという姿勢が、良い広告漫画を生み出す秘訣かもしれませんね。​

タニグチさん:そうですね。ラフ段階でのコマ割り、文字量、構図などのバランスを確認し、情報の強弱や取捨選択を行うことが重要です。​ただし、修正提案を行う際には、描き手としての意図を明確に伝えることを心掛けています。​それでもなお、企業側が入れたい情報がある場合は、その情報を含めつつ、漫画として成立する構成を考えるよう努めています。​

また、シナリオにキャラクターの表情の指示がある場合でも、漫画の演出上、必ずしも指示通りに描かないこともあります。​例えば、「驚く顔」と指示されていても、別の表現でキャラクターの驚きを伝えることが可能です。​このような演出面でも、描き手がコントロールすることで、読みやすい漫画になる場合があると考えています。​

制作した広告漫画事例1

フーモア:人物作画が得意な広告漫画家は多いですが、人外キャラクターや動物を上手に描ける方は限られていると思います。こうしたキャラクターの作画上達のために、どのような工夫をされていますか?

タニグチ:もともと動物を描くのが好きで、特に馬の作画が好きなんです。これは完全に『聖闘士星矢』の影響ですね。上手く描けるようになりたくて、たくさん練習しました。これが原点です。

あとはポケモン図鑑を読んで、動物モチーフのモンスターがどのようにデフォルメされているのか研究しました。リアルな写真を見ても上手く描けない時は、骨格、頭のサイズ、バランスなどの参考に図鑑を読むとインスピレーションが湧きますね。

フーモア:モンスター図鑑を参考にされるとは盲点でした。では、このネジの擬人化キャラクターはどのような工程でデザインされたのですか?

タニグチさん:商品の画像をいただいていたので、この写真から感じ取ったままに作画しました。

フーモア:この商品は色のついた丸みのあるネジですし、かわいいか、かっこいいかで言うとかわいいネジとなると思いました。かわいいネジから連想してこのようなキャラクターデザインになったんですね。

タニグチさん:そうですね。あとは3D素材を使わないので、その商品のフォルムをしっかり再現することも心掛けています。3Dは便利なんでしょうが、自分はすべて描き上げるスタイルで制作します。

フーモア:3D素材は便利ですが、自分の絵柄に馴染まないと違和感が出ますし、商品PRにおいて商品と全く同じ3D素材はほぼないでしょうから、自分で描いて忠実に再現するのもクオリティの高い広告漫画の要素になると思います。

制作した広告漫画事例2

フーモア:こちらの広告漫画では、担当者が現場スタッフから詰め寄られるシーンで、多くの人物を描き分けており、現場の緊迫感が伝わってきます。これは指示書に「多数のスタッフを描いてください」と記載があったのでしょうか?

タニグチさん:特にそのような指示はなかったと思います。シナリオを読んで、多くの人から問い詰められる状況の方が、読者の共感を得られると考え、こちらから提案しました。作画は大変でしたが…。

あと表情のあるモブキャラクターはシンプルに描き、強弱をつけるよう心掛けています。全ての登場人物を詳細に描き込むと、漫画全体が雑然としてしまいますから。

フーモア:怒っているシーンですが、リアルな描写だと圧が強くなりすぎるところ、デフォルメすることで表現がマイルドになり、テンポよく読み進められますね。

フーモア:​白衣の影を緑色に仕上げることで、漫画全体が明るくなりますね。通常、白い服の影には灰色を使いがちですが、緑を選ぶことで暗いイメージにならず、さりげないテクニックだと感じました。

タニグチさん:​登場人物全員が白衣を着ているため、灰色を使うと画面が暗くなってしまうと感じました。そこで、灰色以外の色を検討し、水色か緑かで迷った結果、緑を選びました。全体の色合いも考慮しながら配色には気を付けていますね。​

キャラデザの引き出し

​フーモア:タニグチさんはキャラクターデザインの幅が広いですよね。どのようにしてキャラクターデザインのバリエーションを増やしていったのでしょうか?​

タニグチさん:以前、好きなアイドルグループのイラストを描き続けていた時期がありました。​かわいい中にも個性の異なる人物を描き分けることで、キャラクターデザインの幅が広がったと感じています。​一人の俳優やキャラクターを描き続ける方もいますが、絵の練習としては、複数の人物を描き分けられるようになることが重要だと思います。​練習は大変ですが…。​

また、流行の漫画を参考にして絵柄の研究も行っています。​人気のある絵柄を取り入れ、自分のスタイルに反映させることで、キャラクターデザインのバリエーションを増やしています。

中高年の作画について

フーモア:広告漫画のターゲットが中高年であることが多いので、その年代の作画が求められることが多いのですが、この世代を上手に描ける作家さんは限られてしまいます。タニグチさんは中高年から高齢者まで、幅広い世代の人物作画がお得意ですが、これらを描けるようになった理由を教えてください。

タニグチさん:これも中高年や高齢者を描くのが好きだからですね。若者と高齢者では筋肉のたるみや肉付きの違いなど、明確な差がありますので、良いシワが描けた時には達成感があります。

痩せた高齢者なら頬骨の強調、ふくよかな高齢者なら二重顎やたるみを意識するだけで、作画のクオリティが大きく変わります。

フーモア:少し描き方を変えるだけでキャラクターの年代は大きく変わるので、そこを描き分けられるかで広告漫画のクオリティも大きく変わってきますね。

広告漫画家を目指す方へメッセージ

タニグチさん:好きなものをたくさん真似して描くことが大切だと思います。広告漫画は商品やサービス内容さえ伝わればいいと、顔アップばかりの漫画になりがちです。しかし、そうした漫画は単調で面白みがありません。広告漫画でも引きの絵を描くことで、魅力的な作品に仕上げることができます。

顔漫画サンプル:タニグチさん作
引き構図を入れた漫画:タニグチさん作

これは広告漫画でも商業漫画でも同様で、どこに引きのコマを入れるかで、全体の仕上がりは大きく変わります。なので、他の広告漫画でどこに引きのコマが使われているのかを参考にするのが良いと思います。

引きの絵は必然的に背景も描かなければならないので、漫画家は避けがちですが、そのひと手間を加えることでリアリティが増し、漫画の緩急も生まれます。

フーモア:そうですね。タニグチさんの漫画はアップと引きのコマが織り交ぜられていて、違和感なくサービスの説明が頭に入ってくるのが素晴らしいと思っています。

タニグチさん:あとは煽りや俯瞰構図など、アイラインを同じにせず、画面に動きのあるカメラワークになるよう心掛けています。そのあたりも意識して広告漫画を描いてみてください。

フーモア:本日はお時間ありがとうございました!